ジャーナル
2026年4月24日

祈りと魂とともに ~バッハ無伴奏への旅 竹澤恭子

バッハと向き合うこと、それは私自身のこれまでの音楽人生と向き合うことでもあると感じています。幼い頃からバッハは、私にとって比較的身近な存在でした。ガヴォットやメヌエットなど、自然と心の中に入ってくるような親しみやすい音楽であり、チェリストのパブロ・カザルスによる《無伴奏チェロ組曲》は、幼い私にとって特別な愛聴盤でした。

時が経ち、多くの作曲家の作品に触れ、演奏経験を重ねるなかで、私は次第にバッハの音楽の持つ世界観の大きさを実感するようになりました。時代を超えて、数えきれないほどの作曲家たちがバッハから深い影響を受けていることも、自然と腑に落ちていきました。そして、その偉大なバッハの音楽と真剣に向き合うことが、どれほど大変で重いものであるかを感じれば感じるほど、自分の未熟さを痛感し、なかなかその一歩を踏み出す勇気が持てずに、悶々とした日々を過ごしてきました。「自分は芸術家として、果たしてバッハに向き合う力があるのか?」その問いは、長らく私の心の中にあり続けていました。けれども、これまでの音楽経験を重ね、そしてヴァイオリンに限らず、さまざまなアーティストたちによる多彩なバッハ演奏に触れるうちに、ようやく今、自分自身の心に響くバッハ像というものが、少しずつ見え始めてきました。

《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》に取り組むことは、技術的にも、音楽的にも、そして精神的にも極めて高い壁を伴う挑戦です。対位法を含む多声音楽を一つの楽器で表現するという構造的な困難、壮大な音楽の構成感、舞曲形式のスタイルやバロック音楽の文法の理解・・・そのすべてが、ひとりの演奏家に深い洞察と覚悟を求めてきます。それでも今回、私は思い切ってこの挑戦に臨むことを決めました。それは、自分の中にこれまで培ってきた音楽経験、そして人生経験のすべてを注ぎ込むことで、私自身の人生観が映し出されるようなバッハを、皆様にお届けできたらと、そう願っているからです。それは、幼い私が夢中になって聴いていたカザルスのバッハから受け取った、魂の声、祈りの心が、今も私の中で根を張り、生き続けているからにほかなりません。

永遠なるバッハの音楽には、人と人との心をつなぐ力があると、私は信じています。

竹澤恭子(ヴァイオリン)

《公演情報》

25-S-1 竹澤恭子(ヴァイオリン)