公開直前インタビュー 辰野 翼

びわ湖ホールピアノコンクール1位になったことによって、自分、あるいは周りが変わったなどと感じられることはありますか。2025年の1月ですね。
コンクールの前に東京音楽大学の教員の公募があり、1位をいただいた後の4月から東京音大で講師をすることになりました。ステップアップのきっかけになり、とてもありがたかったです。
これまでいくつかのコンクールで1位になったこともあったのですが、高校生になったぐらいから1位をとることが少なくなりました。
びわ湖ホールのコンクールでは、1位を目指して組んだプログラムで臨み、結果につながったというのが、自分のなかではすごく大きかったと思います。
今年の7月には兵庫県立芸術文化センターで、青柳いづみこさんとデュオ、その後9月の終わりには神戸新聞松方ホールでベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を演奏、今回の優勝者コンサートではチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とハイライトとなる演奏会が続きますね。
そうですね、モチベーションを上げて挑んでいきたいと思います。
特にザ・シンフォニーホールは、小さいころから演奏会を聴きに行っていて、すごく憧れを持っているホールです。憧れてはいても、なかなか弾くことができないホールなので、今回はすごくいい機会をいただけたと思っています。シンフォニーホールはどういう響きをするだろうかと想像しながら練習しています。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を選ばれたのはなぜですか。
僕はロマン派より前の時代の作品を弾くことが多く、最初に弾いたのはバッハの協奏曲第2番です。今回、第1番を牧嶋さんが演奏されますが、もともとチェンバロのために書かれた作品です。僕自身はその後、メンデルスゾーンなどあまり演奏されない作品をかなり弾いてきました。あまり有名な協奏曲を弾いたことがなかったので、今回はチャイコフスキーを選びました。
チャイコフスキーについてはどのように考えられているのでしょうか。
僕のなかでは、「チャイコフスキーといえばピアノ協奏曲」というくらいのイメージだったのですが、公の場で演奏するのは今回が初めてなので、まだ少しつかみきれていないところもあります。
有名な曲なので、多くの人がそれぞれのイメージを持っていらっしゃると思いますが、それとは違うこんな演奏もできるよ、と提案できるような演奏ができればいいなと思っています。テクニックも必要とされますし、独特の哀愁を帯びた歌もあります。いろんなことを考えて取り組んでいければと思っています。
指揮の阪さんについてはいかがですか。
僕が小学生の時に、神戸文化ホールの『カルメン』を阪さんが指揮されていました。その時、合唱に母親が出演していて、「いい人で、とても歌いやすい指揮をされる、すごい人だ」と言っていたのを覚えています。
僕自身は京都市立芸術大学に伴奏員として勤めているので、同じ京芸で教授をされている阪さんを存じ上げていました。スマートな方だなと思っていたのですが、本選のあとでお話させていただき、思った通りの方で、音楽を深いところまですごく掘り下げて考えられる方だと感じました。
こちらも阪さんの音楽に応えられるようにがんばろうと思います。
フランスへ留学されていますが、そのきっかけなどを教えてください。
京芸では声楽伴奏員をやっていますが、大学の時から歌の伴奏をする機会も多くありました。
パリ音楽院では、ブルーノ・リグット先生の元で勉強したいと考えていましたが、僕が受験する年に退官されるということでした。でも、「パリ音楽院にはいくべきだから、手伝ってあげよう」と言われて、入学することができました。そこで、出会ったのが後任として来られたミシェル・ダルベルト先生です。すごく恵まれていたと思います。
ダルベルト先生はフランス音楽だけでなく、ドイツ音楽も得意な先生で、モーツァルトやベートーヴェンも教わりました。それが今のレパートリーの中核になっています。

フランス留学時代の写真 ダルベルト氏(左から4人目)と一緒に
びわ湖ホールピアノコンクールに参加しての感想と、今後参加しようと考えている人へひとことお願いします。
コンクールに参加して、本当にいろんな面でよかったと思っています。
上野真さんが審査員をされるということも、出場のきっかけでした。大学で学んでいたとき、厳しいレッスンをされていて、卒業してからも近寄りがたかったのですが、「いまの自分の音楽を聴いてもらいたい」と思って出場しました。
本選後に設けられた講評の場で、上野先生に「すごく良かった」と言っていただき、自分のそれまでやってきたことを評価していただけたことが、すごく嬉しかったです。
自分の音は、遠くまで飛ばないのが問題だとずっと思っていて、ホールの後ろの方までどうやって音を届かせるかが課題だと考えていました。でも、上野先生から「そんなことはない、会場全体に響いている」と言っていただき、長年の懸念が解決したことも大きかったです。びわ湖ホールの大ホールの音も僕に合っていたのではないかと思います。それに今回、1位を獲得した3人が同じ年齢だったということで、3人でお互いの演奏について話し合ったことも、今後の励みになりました。普段は、あまりそういう経験ができないので、そういう意味でも出場してよかったと思います。
コンサートに来られるお客さんへのメッセージをお願いします。
出演する4人が、それぞれ違った個性を発揮すると思いますので、それを楽しんでいただければと思います。
僕自身はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番という、自分のなかでもすごく大きな作品に取り組みます。お客様に楽しんでいただくことはもちろんですが、その時間を会場の皆様と共有して、一緒に楽しみたいと思います。

Profile
神戸市出身。京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻首席卒業。パリ国立高等音楽院第1〜第3課程卒業後、パリ・エコールノルマル音楽院Concertiste課程で審査員満場一致の首席卒業。松方ホール音楽賞、飯塚新人音楽コンクールピアノ部門第1位及び文部科学大臣賞、アルベール・ルーセル国際ピアノコンクール第2位など国内外で数々受賞。現在、リサイタルやオーケストラと共演、音楽祭等に出演し、国内外で精力的に活動中。東京音楽大学非常勤講師。