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びわ湖ホールの未来に新たな軌跡を創り上げる

びわ湖ホールの未来に新たな軌跡を創り上げる

沼尻:高田会長はヨーロッパでの駐在経験がおありとお聞きしましたが、どちらにいらっしゃったのですか?

髙田:日本銀行時代にパリ、ロンドンなどヨーロッパ各地に駐在しました。音楽については下手のよこ好きで…(笑)。大学時代は名曲喫茶に通って、何時間でもクラシック音楽を聴いたものです。昔からクラシック音楽に親しんできただけに、ヨーロッパでもよく劇場に通い、本物の味を楽しみました。

沼尻:私はドイツに留学していたのですが、ヨーロッパに住んでいて感じたのは、音楽など芸術に対する市民の意識の高さです。小さな街にも立派なオーケストラがあったり、地方都市であってもオペラ、ミュージカル、バレエなど、数々の公演が行われている。自分の街のオーケストラを大切にしたい、文化を充実させたいという市民の気概を感じます。日本でも、この10年で多くの劇場がオープンしましたが、ハコ(劇場)はともかくとして、中味が充実しているところはなかなかありません。

髙田:文化に対する市民意識としては、ヨーロッパと日本では厚みに差があると感じます。日々の暮らしにおいて、普段から文化に触れることは重要でしょう。また四季折々に趣向を凝らして新たな楽しみを創り出すなど、季節感あふれる仕掛けもなされている。ヨーロッパでは恒例行事として開催されているジルヴェスター(大晦日)コンサートなどは代表格です。びわ湖ホールでの人気はどうですか?

沼尻:オープン以来続けてきた結果、3年前に初めて満席にすることができました。ようやく定着したという印象です。夜の10時に開演し、12時にカウントダウン、「新年おめでとう!」の声が響いて終了という流れが、大いに盛り上がります。そのまま初詣に行く方も多いということで、滋賀県の年中行事の仲間入りを果たしたような思いもします。

髙田:さまざまな苦労もあったと思いますが、ようやく沼尻芸術監督の努力が結実したということですね。継続することの大切さを感じます。

 

びわ湖ホールという優れたハードを活かすソフトの充実を図って

髙田:びわ湖ホールは琵琶湖畔に面したすてきなホワイエや、西日本初の4面舞台を持つ大ホールなど、音響や照明といった設備はまさに世界一流であると思います。これだけ整ったホールは少ない。ハード面を活かすためにも、より質の高いソフトを提供し続けることが求められます。そのためにも劇場が各方面に働きかけ、さらに幅広いファン層を生み出すための、何らかのサプライズを用意するなどの仕掛けが必要です。例えば世界遺産のサンクトペテルブルク市のような立派な劇場を持つ観光都市では、宿泊していたホテルで当日上演していたバレエのチケットを手配することができました。1演目の上演回数が少ない日本のホールではまだ難しいシステムですが、新たな手法として視野に入れておきたいですね。

沼尻:びわ湖ホールは琵琶湖を臨む最高のロケーションなのですが、市街地から多少離れていることもあり、コンサートが開催されていない日は人の気配が少ない印象がありました。最近ホールに隣接して、レイクビュースタイルのカフェやレストランがオープンし、コンサート前後のお食事やデートスポットに利用されています。これからも市民の憩いの場としての認知が高まることを期待しています。

髙田:びわ湖ホールのメインロビーでは、月1回のペースで無料のロビーコンサートが開催されていますね。あれは沼尻さんの立案ですか?

沼尻:ええ。一昨年からメインロビーで開催しています。さまざまなジャンルの音楽がロビーで演奏されることが、親しみやすさにつながっているのでしょう。最近は1回のコンサートに300人ほどのお客さまが集まってくださいます。ロビーコンサートのおかげで、来場者が増えるという効果も上がっています。
髙田:仕掛けとして成功しただけでなく、評判も上々のようですね。そこに行けば何か新しい、楽しいことがあるという認知が広まることで、期待も高まるというものです。例えば南仏ナント市の「ラ・フォル・ジュルネ」のような、市民と劇場が一丸となって実行するフェスティバルもあればいい。フェスティバル目当ての観光客が増えています。

沼尻:市民も観光客も音楽ファンも街を盛り立て楽しめる、そんな音楽祭を開催したいという思いは、私も以前から持っていました。今年の秋、大津市や他のホール、団体などと一緒になって実現しました。

髙田:今年9月から10月の大津祭(*)の時期に合わせて開催される「びわ湖大津 秋の音楽祭」ですね。大津の町中(まちなか)を舞台に、演劇や美術なども含めた催しとあって、市民の期待も高まっているようで、ぜひ成功させたいものです。

沼尻:びわ湖ホールでもさまざまな公演を予定しているのですが、中でもご期待いただきたいのがオペラ『ルル』です。ベルクの作品で、日本で上演されることは少ないだけに、意欲的に取り組みたいと考えています。

髙田:オペラファンはファンとしてのアイデンティティーが確立していますね。私などは時には苦手意識を感じることもあり、「食わず嫌い」の人も多いのでは。必ずしもハッピーエンドではないし、愛憎、嫉妬、殺意など、繰り広げられるのはどろどろしたストーリーだし…(笑)。オペラは面倒くさいという心理も分からないことはない。

沼尻:確かにオペラといっても作品の幅は広く、さまざまな要素が含まれています。『ルル』もハッピーエンドではありません(笑)。ただ20世紀に生まれ、2003年にようやく日本初演となった作品ですから、なかなか生で観られる機会は少ないと思います。このびわ湖ホールから、さまざまな作品を発信していくことで、お客さまが「びわ湖ホールに行けば、今まで知らなかった音楽の素晴らしさが体験できる!」と思っていただけると考えています。

髙田:また若手音楽家の育成も優先課題と考えます。滋賀県出身の優秀な音楽家が、日本だけでなく世界でも活躍するようになっています。今後は関西レベル、ひいては全国レベルのコンペティションを開催するなど、さらなる展開も考えていきたいですね。

沼尻:びわ湖ホールでは1998年にホール専属声楽家集団「びわ湖ホール声楽アンサンブル」を設立しました。びわ湖ホールの自主公演への出演や、学校巡回公演などの教育普及の取り組みはもとより、今では全国で数多くの公演を行うまでに成長しています。

髙田:新しい事業を立ち上げ、それを軌道に乗せるには時間がかかるものです。音楽家育成も同様なのだと痛感します。何より滋賀出身の音楽家たちが、地域で活動を続けているということは、市民にとっても代えがたいことではないでしょうか。街で音楽家とすれ違っているかもしれないという身近さは、生活に音楽が根ざすという意味でも大きい。不景気だと叫ばれていますが、この時代だからこそ市民レベルから新たな仕掛けを打ち出していきたいですね。びわ湖ホールからの訴求に対し、県民からの生のリアクションを活かせるよう、インタラクティブ(双方向)な活性化を図っていきたいと考えています。

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